耐震等級3の家でも、活断層のズレによる被害に遭えば倒壊する。こんなことを書くと不安を煽ると怒られそうですが、事実なので仕方ありません。またそれなら、耐震等級3の家を建てる意味がないじゃないかと思われるかもしれませんが、それは違います。最後まで読んで頂ければ納得してもらえると思います。
私も耐震等級3の家を建てています。それは、世界で発生するマグニシュード6以上の地震の約2割が日本周辺で発生しており、政府の地震調査委員会が発表する全国地震動予測地図を見ても安全な場所がないからです。
ハザードマップ公開の経緯
私が子供のころはハザードマップなど聞いたことはありませんでした。そもそも公開されていなかったようです。ハザードマップの原点は地理学(災害履歴や土地条件)、活断層、水害地形分類図、火山地形分類図、地質学の分野で作成されてきた地図。しかし、これらは国民に広く公開されることはなかったようです。
理由
- そもそも地震などの天災は予測不能。
- 危険予測により国民に不安を煽ることになる。
- 予測が外れた場合による保身。
- 公表することにより地価が下がった場合に受ける非難。
契機は、1995年の阪神・淡路大震災。国民の大半は、大震災は関東で起き、関西は安全と思い込んでいました。(実際は1970年代後半以降に、東海から関東の地震危険性があまりに協調されるようになったため、国民が勝手に誤解していた)しかし、専門家は神戸市周辺に複数の活断層が存在することを知っていました。それゆえ、もっと総括的な情報開示の必要性を訴える人が増え、2000年頃から本格的にハザードマップが作成されるようになります。
地震は予測不可能
日本で想定される災害の種類として、暴風、竜巻、豪雨、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、津波、地震、噴火、地滑りなどがあります。ハザードマップは以前に確認された災害を足し合わせて最悪のケースを表しています。そのため、かなり危険を煽るようなものになりがちです。
そのなかでも、地震は過去に確認された活断層をもとに予測していますが、かなり曖昧なものにならざるを得ません。そもそも予測では、断層の長さやずれを仮定しますが、その仮定の置き方次第で予想結果は大きく変わります。自然現象(特に地震)は複雑で予想には不確実性が高くなるのです。
こちらは2009年版と最新の2020年版の全国地震動予測地図の今後30 年間に震度6強以上の揺れに見舞われる確率の比較です。予測自体が激変しているのが分かります。※色区分も変更されている。
この全国地震動予測地図の比較を見るだけでも予測は難しいのが分かりますが、皮肉なことに2000年以降に地震が起きた場所は、全国地震動予測地図が示す確率が低い場所と評価されていた場所です。確率論なので外れた訳ではないですが、予想地図を見てもあまり意味がないと感じてしまいます。全国地震動予測地図2020年度が発表されましたが、地盤の固さや地形のデータ見直しにより確率の上下動の変更が出ています。そもそも地震の予測など不可能であり、地盤などを見て揺れやすいなどの参考にしかならないのです。
多種多様な地震のタイプ
日本列島付近で発生する地震として、まず津波を伴うような「海溝型」と、浅い陸プレートが震源となる「内陸型」とに大別されます。海溝型とはプレートがプレートの下に沈み込み発生するのに対し、内陸型とは地下の岩盤の中で起き、正断層、逆断層、左右横ずれ断層など陸側のプレートの動きで起こり「活断層型」とも呼ばれます。東日本大震災が「海溝型」で阪神淡路大震災や熊本地震が「内陸型」となります。※内陸型を直下型と呼んでいる場合も多い。
■まとめ:内陸型=活断層型=直下型
では、甚大な被害をもたらす可能性がある活断層型が、軽視されがちなのは何故だろうか?海溝型地震が、数十年~数百年の間隔で発生する一方、活断層型地震の発生間隔はおよそ数百年~千年以上と言われる。それゆえ、海溝型が30年間で70%とか90%の確率で起こると予測されるのに対し、活断層型は長いスパンで活動するため30年間で1%と、起こる確率自体が全く違うからです。
例えば、2016年の熊本地震を起こした布田川断層における30年以内の地震発生確率は、0~0.9%という値でした。しかし、見落としてはいけないのは、数えきれないほどの活断層がある日本では、ひとつひとつの活断層に対する地震の確率は低くても、活断層自体が多ければ、地震の影響を受ける確率も上がります。
■最近の主な活断層型地震
西暦 | 名称 | 規模 | 死者 |
1925年 | 但馬地震 | M6.8 | 428人 |
1927年 | 北丹後地震 | M7.3 | 2925人 |
1930年 | 北伊豆地震 | M7.3 | 272人 |
1931年 | 西埼玉地震 | M6.9 | 16人 |
1943年 | 鳥取地震 | M7.2 | 1083人 |
1945年 | 三河地震 | M6.8 | 2306人 |
1948年 | 福井地震 | M7.1 | 3769人 |
1984年 | 長野県西部地震 | M6.8 | 29人 |
1995年 | 阪神淡路大震災 | M7.3 | 6434人 |
2000年 | 鳥取県西部地震 | M7.3 | 182人 |
2004年 | 新潟中越地震 | M6.8 | 68人 |
2007年 | 能登半島地震 | M6.9 | 15人 |
2014年 | 長野県北部地震 | M6.7 | 46人 |
2016年 | 熊本地震 | M7.3 | 272人 |
2018年 | 北海道胆振東部地震 | M6.3 | 42人 |
活断層から判断するとすべての国土が危険
国土地理院によると、現在、日本では2千以上もの活断層が見つかっていますが、地下に隠れていて地表に現れていない活断層もたくさんあります。また、地震調査研究推進本部もあまりにも的中しないためか、活断層調査が十分でない地域があり、現時点では確率が低くても、今後の調査によってこれまで知られていなかった過去の地震や活断層の存在が明らかにされ、確率が上がる可能性があるなどの記載をしています。
地図でみると、活断層の多さが分かります。さらに、地質図navi、防災科研のサイト、活断層図(都市圏活断層図)整備一覧で細かくどの位置に活断層があるか確認できます。
活断層のズレは耐震等級3でも倒壊が避けらない
常識的に考えれば分かりますが、耐震実験は揺れ(地震動)に対するものです。震源直上の一部地域に起こるズレはどうやっても防げません。そもそも家の土台がある地盤がズレるのですから。安心感を与えたいのは理解しますが、熊本地震で耐震等級3での倒壊が報告されていないといって、耐震等級3ならズレにも万能と勘違いしてはいけません。
建物に大きな被害があった益城町には3つの活断層があり、地盤が横方向に最大で35センチずれたことが分かっています。そもそも耐震等級3の家がどの程度あったか分かりませんが、熊本地震の調査報告の絶対数からしてあまりなかったと推測できます。
また、地震調査研究推進本部が公表している予測では、断層のズレ量を数メートルとしているところもあるため、益城町の横方向への最大で35センチのズレは、ズレ量としては小さかったと言えます。
実際に2014年の長野県北部の地震(M6.7)で、地表地震断層が出現した大出地区では、家屋全体が撓曲変形に伴って傾いたり、剪断破壊を受けた住宅が多数確認されています。この地震の断層のズレが1メートル程度なので、数メートル級のズレが起こる断層直上の場合は、耐震等級3も倒壊は避けられないでしょう。
このようなことを認識しており、すでに動き出している県や市もありますが、まだ僅かなようです。
■徳島県では2013年から「特定活断層調査区域」を指定し、特定施設の新築等(新築、改築、移転)を行う場合に、事業者の方が活断層の調査を行い、「直上」をさけて建築させています。
■神奈川県横須賀市では、土地利用の 調整に関する指針を出して「活断層の左右25メートル以内には家屋などを建築しないでほしい」と開発業者に対して要望しています。
■兵庫県西宮市では、開発事業におけるまちづくりに関する条例のなかで、活断層による影響を受ける恐れがある場合に調査報告を求めています。
■福岡市では、警固断層帯南東部に近い一定の区域において、これから新しく建築される中高層の建築物について耐震性能を強化するため、建築基準法施行条例の一部を改正しています。
まとめ
日本は地震がいつ起きてもおかしくない地形であると認識し、耐震等級1、2や「耐震等級3相当」ではなく、しっかりと耐震等級3以上の家を建てましょう。
ズレによる被害が避けられないといって、不安を煽るつもりはありません。生きている100年というスパンではズレによる被害に遭う可能性は、確率論でいくと限りなく低いです。しかし、この30年に未曾有の地震を私たちは経験しました。事実を知っておく必要性は感じますし、知識として知っておくだけでも、ハザードマップを見るときに避難という観点で身近に感じられるかもしれません。
そして、すでに所有している土地なら仕方ありませんが、土地から選ぶときには活断層の近くを選ばないようにしましょう。ズレによる被害は揺れ対策である耐震性、耐震等級とは全く関係ないのです。
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